オムライスの老舗「北極星」

さあ週末だ、外食の週末だ!ということで、今日は言わずと知れたオムライスの老舗「北極星」に行ってきた。
行ってきたのは法善寺店。有名な水掛地蔵と、夫婦善哉のすぐ横である。法善寺横丁に行くこと自体初めてだったのだが、以前の火事で一帯が焼けて改装した後らしく、店の外観は綺麗であった。法善寺横丁の西側から来たので横丁に入ろうとした途端に北極星が見つかった。と、横の夫婦善哉の前では何やらテレビカメラが準備されている。何かの取材だろうか。それを脇に見ながら、北極星に入る。時間は11:30を少し過ぎたくらいだったか、店内に客はいないようで、私が本日最初の客だったのだろうか。千日前の通りに面している自由軒とは違い、観光名所とはいえ昼間は少々ひっそりした感じの法善寺横丁なので、店内大盛況というわけではないらしい。オムライスを食べることを考えていたが、弁当や定食もあるようで少し悩むが、予定通りチキンオムライスをオーダー。やはり最初は定番を食すのが定石である。鍋に火が入り、程なくしてライスを炒める香ばしい音が聞こえてくる。シャッシャッと小気味よく鍋を振る音は、さすが熟練の職人というところか。そして、ソースがかかったオムライスが私の前に現れる。卵には焦げ目が全く無く、美しい黄色をしている。食べるのがもったいないなと思いつつ、まずはおもむろに一口食べる。口に入れた瞬間、思わず顔がにやけた。美味しいものを食べた瞬間というのは、意識せずにその感動が表情に表れるものだ。一人でにやけている客はさぞかし怪しいだろうと思いつつ、これは美味いなと唸る。卵は見た目通り焦げ目が無く、ふわふわとして柔らかいのだが、半熟ではない。卵にしっかりと火が通り、それでいて表面に焦げ目が付く直前という絶妙のタイミングで仕上げているのだろう。料理としては、熟練料理人の作るだし巻き卵に通じるものがある。そして中身のチキンライスはと言うと、薄味であっさりしているのだが、デミグラスと思しきソースの味がじわりと効いている。米は全てダマになることなく、一つ一つの粒が立っている。全ての味のパーツが美しく調和しており、「美味い」という表現がぴったりである。自由軒のカレーは一種風変わりで名物と言えるものだが、このオムライスは果たして名物と言えるのだろうかというくらい、ひたすら正攻法の味である。そうして味わっているうちに食べ終わりを迎える。大きめのサイズを注文したはずだが、まだ食べ足りない気分である。本当に美味しいものはいくら食べても飽き足らないものだということを改めて実感した。お会計を済ませ店を出る。と、まだテレビカメラはいた。そろそろ何か始まるのかな、と少し離れたところから見ていたら、若い娘が現れて店の前でカメラに向かってにっこり笑う。老舗の前で何ともミスマッチな、アホくさ、と思いながらその場を立ち去る。折角なので横丁の界隈をもう少し散策して帰ろうかと思ったが、何やらさえない中年の醜男と金髪の娘が寄り添って歩いている。男は娘の腰、ではなく尻に手を回している。またしてもアホくさ、と思ったので、私はひとり胃の中にえもいわれぬ満足感を覚えながら、その界隈を後にした。


北極星のみならず、オムライスの専門店に行ったのは実は今日が初めてである。我が家でオムライス好きの母が作るオムライスは、その辺の定食屋が出す程度の味には負けない代物なのであるが、やはり北極星の味は違った。母に言わせると、それがプロとアマの間の壁だそうである。オムライスというと、恩師の江草先生は大のオムライス通なのであるが、北極星の他に「ポムの樹」も薦めておられた。気が向けば行ってみるとしよう。ただ、こうも食べ歩きばかり続けていては、銭が湯水の如く消えていくのがやや心配である。