英国政治の転換点

昨日になるだろうか、イギリス労働党のブレア首相が、首相職と議員職を辞任し、政界から去った。長くなるが全文引用する。

ブレア前英首相(54)は27日、選挙区の英中部セッジフィールドで下院議員を辞職する意向を表明した。
首相職を同日辞任したブレア氏はこれにより、24年間の国会議員生活にも終止符を打ち、英政界から引退することとなった。
議員辞職は、米、露、欧州連合(EU)、国連の4者を代表する「中東特使」の職務に専念するためで、今後は国際舞台での活動に軸足を移すことになる。
ブレア氏は27日昼、議会下院で最後の党首討論に出席。普段は激しい論戦を挑む野党・保守党のキャメロン党首は、ブレア氏の過去10年間の「偉大な業績」をたたえた。ブレア氏が最後の答弁を、「政治は崇高な理想を追い求める場所だ」と締めくくると、与野党議員が異例の総立ちの拍手でブレア氏を見送った。

http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20070628id01.htm

同じように引退したドイツのシュレーダーは当時61歳だった。小泉前首相が退いたのは65歳くらいか。若い政治家ほど引き際を潔くというのがあるのかもしれない。ま、日本でも細川さんあたりは今頃悠々自適にやってるんでしょうけど。
ブレアがイギリス政治の一時代を築いたことは間違いない。対外政策では対米追従という汚点を残したが(この点は小泉と対照的だ)、経済政策で掲げた「第三の道」路線はサッチャリズムに続く英国政治の一大パラダイムであっただろう。この路線は日本や他の先進諸国にとっても重要な試金石となりうるものである。長年イギリスの首相を務めてきた知名度を活かせば、国際舞台での活動にも存在感を示すことができるだろう。
「政治とは崇高な理想を追い求める場所だ」
完璧な政治というものは存在しない。しかし、政治を天職とする人々の絶えざる営みによって、政治は止揚され、崇高な理想へ向かってゆく。
ブレアの引退に際して、野党側が賛辞を惜しまなかったことも非常に感慨深い。日本の小泉という一時代を築き上げた男に対してこのような賛辞があっただろうか。一つの時代がなした偉業を褒め称え、次の時代に引き継いでいくことこそ、未来の政治に資するものであろう。J.S.ミルが示したような経験論的な政治社会への志向が、英国には息づいているように感じられる。


一方、ブレアの退任に伴って新たな政権が発足した。
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20070628id25.htm
「安定した政権基盤を確立する首相の狙いを体現した形」というのは小泉後の安倍政権にも似たようなものがある。
世界の先進諸国で次々に起こる政権交代は、どれも似たような傾向があり興味深い。欧州で一番早く政権交代を済ませて、EUの主導権を握りつつあるドイツを措くとしても、フランスのサルコジなどの方針は専ら内政面での課題に取り組んでいるものがあり、また新自由主義的な立場を標榜していることも、他の欧州や日本と類似している。
もっとも、英国政治においては、キャメロンを筆頭とする保守党が巻き返しを図っていることもあり、ブラウン新内閣が早晩替わる可能性も低くない。古い時代が過ぎ去り、新たに芽吹こうとしている英国の、ひいては欧州の政治はどのような展開を見せることであろうか。