森見登美彦「太陽の塔」は危険

まずあなたがたに一つだけ言っておく。人前では読むな。

太陽の塔 (新潮文庫)

太陽の塔 (新潮文庫)

本書は間違いなく痛快の名に値する小説である。休み時間に余りにも退屈だと思って、しかし休み時間だから思考の負担にならないような軽い本を、と思って本書を読み出したのがまずかった。冒頭を軽く読んで面白いのを承知の上で購入したが、まさか休み時間に読んで一人笑い出すのを必死に堪えなければならなくなるような本だとは夢にも思わなかったのである。新潮文庫の100冊キャンペーンのブックカバー欲しさに軽率に購入した自分を呪った。
もう一度繰り返すが、人前でこの本を読んではいけない。硬派な文章でユーモラスに駆け抜ける痛快さが、この本にはある。一見堅そうに見せかけた一文ごとに仕掛けが施されていて、笑える。特にこの本の笑いは思わずにやけてしまうような笑いである。帰りの電車内では存分にニヤニヤさせてもらった。
ファンタジーノベル大賞だったか、そういう箔付きもあって多くの本屋では文庫の平積みコーナーの一角を占めている。書店員が自作したと思しき推薦の広告もあったりするが、そうした賛辞は何故か「ハマりますよ」だとか「要注目」だとかいう控えめなもので終わっているのである。何故爆笑だと警告しておいてくれないのか。そうした点に、書店員のいやらしさが垣間見えた今日だった。