麻生太郎「とてつもない日本」

404 Blog Not Found:書評 - とてつもない日本
先週辺りにタイトル見て衝動買いして、丁度今日に読み終えたところだった。
率直に感想を言うと、面白い。その面白さの一番の要素となっているのは、麻生さん独特の「若さ」が文章ににじみ出ていたことである。ネット上ではローゼン大臣と呼ばれることもある麻生さんだが、この本においても麻生さんはオタクを自称してはばからない。しかしながら、私としては、麻生さんがマンガをよく読むことは、オタクの共感を得るためになっているのではなく、そこから「若さ」を得ているのだなと思った。私は以前、麻生さんの文章を読んで思わず目を剥いて驚いてしまったことがある。

[大臣のほんねとーく]
● 妻を二重に「だました」話(外務大臣 麻生太郎
今月3日、イラクバグダッドを「電撃訪問」し、先方の首相と外相にお
会いしました。イラクで活躍した陸上自衛隊は、役目を終えて帰国しました。
それでも日本は、航空自衛隊の働きとODAを両輪として支援を続けますと
いうことを、直接伝えにいく必要があると思ったからです。
(中略)


いろいろ芝居を打って出た割に、現地から届いた写真の私は普段通り寛い
でいたらしく、帰国後小泉総理に「緊張感が感じられなかったゾ(笑)」と
言われるオマケがつきました。

小泉内閣メールマガジン 第247号】中央アジア訪問(2006/08/31)

>緊張感が感じられなかったゾ(笑)
普通、還暦過ぎたオジサンが文尾にカタカナで「ゾ」と入れるものだろうか。これだけ見ても麻生さんの若さは相当なものである。長生きしそうだな、この人。
安倍総理の「美しい国」は借りて読んだことがあるが、あれは借り物にもかかわらず壁に投げつけたくなるような本だった。内容は言わずもがな、ブックオフに行くと「バカの壁」と並んで売り飛ばされている新書の双璧をなしているのがよく分かる。
それと比べると、麻生さんの文才というか、アジ能力は半端じゃないなと思った。文章は良い意味で「煽り」の要素が入っているのだが、そうした意図を警戒しないならば、あまりのポジティブな書き方に、安倍総理以上の「坊ちゃん」であるようにも思えてしまう。安倍の次にこの人が総理になるとしたら、小泉以来のアジ政治が復活しそうな予感さえする。麻生さんの祖父である吉田茂については、高坂正堯著「宰相 吉田茂」で一通り学んだが、麻生さんはまさしく吉田茂の経済・外交スタンスを受け継いでるように感じた。事実、彼が外務大臣になってからは外交についてあまり悪い噂を聞かない。
以上のように、書き手の評価も含めてとても良い本なのだが、正直あまり褒めすぎるということをしたくない。というのは、この本は「良い本」であるように書かれているからである。それを弾さんほどの書評書きが額面通りに高評価だけしているのも何となく味気ない気がする。一般的な書評としての部分は以上にしておいて、少し気になった点について疑問を挙げてみたい。
一つは、靖国問題に対しての解決案の部分である。麻生氏は靖国の非宗教化ということを主張するのだが、その際「祭式を非宗教的・伝統的なものにする必要がある」(同書p150)とあるが、非宗教的な祭式とは一体如何なるものであるのか。寺社仏閣が大多数の日本人にとって意識しないながらも当然であるような宗教になっている現状において、非宗教的な祭式というものを是非一度見てみたいものである。非宗教化の説は麻生氏に限らず聞くが、私が疑問を感じるのはそのような点である。
二点目。麻生氏は最終章において外交の展望について語っているが、軸となっているのは現在の内閣が打ち出している「自由と繁栄の弧」思想である。何の変哲もなく普遍性があるように思われる思想だが、言わば欧米民主主義的な思想を当然のように賛美する姿勢には若干の違和感のようなものを感じざるを得ない。イスラーム主義の加熱によって、西欧vs非西欧の対立構図が再び惹起されつつある今、その思想が無検討に普遍とされていいものかと思うのである。非西欧圏の思想よりも民主主義的価値において優れているから広めようという考え方には、一種のダーウィニズムのような傲慢さを感じないでもない。思えば、日本が西欧近代的な価値を非西欧圏においてリードしてきたのは、福沢諭吉の「文明論之概略」以来である。麻生氏が日本を「ソートリーダー(thought leader)」とするのにも、それなりの歴史を感じないでもないが。
この本については以上である。褒めたくないと言いつつ結構褒めてしまったきらいがあって、少し後味が悪い(苦笑)。新潮新書は著者の選別とタイトルの付け方が他新書に比べて格段に上手い。その割にページ当たりの字詰めは甘いので、惹かれて買ってしまう度に少し損をした気分が拭えないものである。

とてつもない日本 (新潮新書)

とてつもない日本 (新潮新書)

宰相吉田茂 (中公クラシックス (J31))

宰相吉田茂 (中公クラシックス (J31))