ポスト京都議定書の展望

論座9月号に興味深い論文が載っていたので紹介したい。橋爪大三郎氏による「ポスト京都議定書の戦略を構築せよ」と題されたものである。
私などはつい2,3年前に京都議定書について詳しく調べていた手合いなので、もはやポスト京都議定書の段階に来ているとはにわかに信じがたい話だったのだが、著者によるとこのようなことらしい。京都議定書は中国が最初から含まれず、その上アメリカも脱退したとあって、世界の一位二位の排出国が参加していないのであるから、結局環境政策について前向きに取り組んでいる”環境優等生国”の会合のようになってしまって、地球温暖化抑止に対する実効力は怪しいものになってしまったと言う。
そこで京都議定書後の温暖化抑止策をにらんで、アメリカがポスト京都議定書においてリーダーシップを取る見込みがありそうだという。アメリカ国内では次期政権が民主党となる可能性が高く、そうなれば民主党は環境重視政策(「不都合な真実」のゴアは民主党である)を取るであろうから、共和党政権のうちに環境政策に先鞭を付けておきたいというのが一つの理由である。もう一つには、世界的に環境重視になりつつあることによって、いわゆるエコ製品の需要が中国などの新興市場の勃興を背景として伸びており、アメリカもそろそろ乗り出さなくては世界的ビジネスチャンスを逃してしまうという極めて物質的な懸念である。
思考実験−2007-08-03温暖化抑止体制前進か
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20070802i301.htm
ここまでを現状分析した上で、著者はポスト京都議定書体制の展望を語る。世界の超大国であるアメリカの主導があってこそ、温暖化抑止について実効的な体制が作れるとしている。日本はアメリカのリーダーシップの下でより発言力が増すものだと希望的に見ている。そこで、日本は環境先進国であること、アメリカよりも先に京都議定書を牽引してきた先任として、排出量削減目標を現在の基準よりもさらに引き上げて、アメリカをはじめとする各国にプレッシャーを与えるべきだという。
しかし、排出削減は実際の道のりとしては非常に厳しいものがある。京都議定書によって日本に課せられている6%削減目標も、1990年比で言うとおよそ13%削減しなければ達成できないことであるし、それを排出量取引によって実質を伴うことなく強引に達成するしかないというのが日本の現状である。議長国として不達成という事態は何としても避けねばならないし、文字通り苦肉の策だと言える。
著者によると、やはり排出削減技術として最も有望であるのは、炭素を液化するなどして海中に廃棄する仕組みであるという。これはいわゆる炭素固定化技術を指していると見られる。この技術を発電所に利用することによって、火力発電所の排出ガスから炭素をカットできるとしている。そのために火力発電所発電効率は40%→30%に下がってしまうのだが、電気代を五割増やせば済むことだと著者は軽く言ってのけている。ご、5割ですか、と読んでいる私は驚いたものだが、温暖化抑止という大目標に比せば何ということはないという認識なのだろう。
末尾では、そうした実効的な排出削減政策の端緒として、国民の意識を促すために環境税などの導入も検討すべきだと締めている。実際、環境税を導入することがそれ自体で排出削減に繋がるかどうかは怪しいものがあるし、その意味では逆にアナウンスメント効果が最も大きいのかもしれない。