阿鼻叫喚

本日は久々に阿倍野で食事を取った。以前から気になっている担々麺の店があったので、あべのルシアス地階にある「担担」に寄った。
値段設定は担々麺が一律890円と、そこそこ高め。基本は白胡麻、黒胡麻、赤唐辛子の三種らしいが、ハバネロ担々麺という、いかにも私の挑戦を不適に待ち受けているような名前がメニューにあったので、迷わずそれを注文する。
店員が少し驚き気味に「すっごく辛いですよ、いいんですか」とファイナルアンサーを迫ってきたが、インド料理店のカレーで味覚芽を機能不全にする修行を日夜積んできた私がそんな軽薄な脅しに屈するはずもない。迷わずハイと力強く答えた。
連れは私の挑戦する情熱に惹かれて赤唐辛子を注文したようだ。出来上がりが待ち遠しい。周りでは誰もハバネロなんて食べていないように見えるが、それは無問題である。彼らは辛さに味覚芽を麻痺させるマゾヒスティックな快楽を知らないのだ。
そして、ハバネロ担々麺が登場する。
この店は担々麺の器が独特で、とにかく巨大な器に水たまりのようにして担々麺本体が入っている。ハバネロ担々麺には大量の唐辛子がかかって毒々しい色彩を織りなしている。香りを軽くかいでみると、今までにないほどの危険な香りがした。
そして一口スープをすすってみる。まず、味が濃厚で美味い。そのあとになかなかに強烈な辛みが来るが、これなら食べられるんじゃないかという予感がした。
予感がしただけだった。
まず麺を三口ほどすすってみて分かったのが、麺を飲み込むタイミングに余裕を持たせないと喉がやられる。しかし口内は辛さが危険域を超えているので飲み込もうとする衝動が襲う。そのまま嚥下してしまうと、喉があまりの辛さに咽せてしまい、鼻に通じる粘膜に唐辛子が付着して、ひどく不快な状態になってしまう。
カレー店で何度も修行したように、水を絶って辛さに麻痺した状態にしようとするが、唐辛子だけの辛さはどうも勝手が違うようで、皮膚をヒリヒリと殺傷していく。麺をすするときに細心の注意を払わないと、口の周りが腫れたようなヒリヒリ感が出てくる。


この辛さは今までに体験したことがない。


そう悟るのに結構時間がかかったことは私の修行が全く無駄ではなかったことを指しているのか、あるいは単に鈍感であっただけなのか。
辛さが殺傷能力を持ち始めているせいか、麺をすするだけで目に涙が浮かぶ。若干のタイムラグの後に鼻水が出てきて、さらにその後に首から上の汗腺という汗腺から汗が噴き出てくる。そうして顔面は汗と鼻水と涙とでぐしょぐしょという、わけのわからない状況になり、家から汗拭き用のタオルを忘れていたらどうなっていただろうかと、思う。そう思う間もなく汗が垂れる。あぁ、ひどい。
思うらく、この辛さは今までにない新たな閾値を超えたものである。恐るべし。連れは赤唐辛子で苦戦していたが、多分私がアレを食べていたら丁度であったのだろう。
すると、以前に別の担々麺屋で「激辛担々麺」とあるのを注文したときの張り合いの無さは何だったのかと怒りが込み上げてくる。限定30食と書いてあるにもかかわらず、実際にはインドカレーの辛さの足元にも及ばず、スープもぐいぐい飲み干せるような代物であったではないか。
…で、何とか完食はしたが、スープは飲める代物ではないので諦めた。その後、辛さが完全に引くまでに結構な時間がかかり、胃の中で暴走する様を感じて、胃に穴が空かないかと心配したのは言うまでもない。


よくよく考えてみると、器が巨大なおかげで麺をすすったときの飛び散りが服に付くようなことがないので、よく考案されているなと思った。というか、猛烈な辛みの中にも味自体は非常にクオリティが高いと感じられたので是非再訪したい店である。
二度とハバネロ担々麺は頼むまいと思うものだが、「激辛への意志」は非常に突発的なものなので、もしかすると同じ轍を踏んでしまう可能性も高い。全ては永劫に回帰してしまうものなのだ。